どこかの物語5*スクリーンの中の僕
前回からのつづきです。
森の中に居た僕は意味がわからなかった。
さっきまで水の中にいたのだから。
僕は落ちつこうと思って呼吸をして瞬きをした。
そうすると今度はいつのまにか真っ暗闇の中で椅子に座っていた。
顔を上げると大きな四角い枠の中に森が映っていて
その森には僕もいた。
真っ暗闇の中、椅子に座っている僕は
四角い枠の中にいる森の中の僕を眺めた。
そして森の中にいる僕は木の後ろに隠れていたが、
森の中で木の実を拾っている人たちを見つけた。
その人たちは怒っている人に木の実を拾わされているようだった。
嫌そうに木の実を拾う人たちを観察しながら、
怒っている人に見つかって
僕も木の実を拾わされるのではないかと思い不安になった。
だから僕はそこから逃れる様にして
森の奥深くへと走って行った。
真っ暗闇の中で座ってこの様子を眺めている僕は
木の実を拾う人たちと、
森の中の僕が実は違う世界に居る事に気が付いていた。
だから、あの怒っている人に森の中の僕が見つかる事はあり得なくて、
逃げる必要なんかないのだと、
森の中の僕に伝えたかった。
でも僕は、森の中の僕にどうやってこの僕の声を届けられるのか、
その方法がわからなかった。
多分僕はずいぶん昔には、
僕の声を向こう側の僕に届ける事が出来た様に思う。
ただ、向こう側の僕が河で囚われてからは
僕の声は届かなくなった。
僕はでも四角い枠の中の森の僕に叫んでみた。
『そっちじゃないよ!』
森の僕は立ち止まった。
声が聞こえたのか?
森の中の僕はキョロキョロしている。
僕は希望が見えて来た。
よし、死んで生まれ変わったから声が届くようになってきたのかも。
森の中で立ち止まったままの僕に僕は言った。
『そうだ、それでいい。もう進もうとしなくていいんだ。
意識が動けば景色は勝手に変わるから。』
僕は森の中の僕に祈る気持ちでその言葉を送った。
絵と手紙のショップ 『スピリチュアル系絵手紙屋ヘモグロビン』
詳しくはこちらから↓